「乾しいたけ、こう食す」-浜美枝(女優)

ハレの日の食の思い出。

食は、生きるために欠かせないものであり、生きる喜びと密接に結びついています。それだからでしょうか。食の思い出は、他の思い出よりもいっそう深く、心に刻まれるような気がします。

私にとって子ども時代のハレの日の食べものは、母が作ってくれる「ちらし寿司」でした。人参、乾しいたけ、かんぴょう、さやえんどう、それに干しエビと錦糸卵。中にいれるのはこれだけ。本当に素朴なちらし寿司でした。でも、もののない時代、私たち子どもはもちろん、父も母も祖母も、このちらし寿司が嬉しくて一家で雛祭りなど指折り数えて待っていたものです。
大晦日の夕食に食べる太巻き寿司も忘れられません。これは伊勢出身の母が我が家に持ち込んだ習慣で、その年の厄払いをして、福を呼び込むために、乾しいたけとかんぴょうなどを巻いた太巻きをひとり一本食べるのです。大晦日、おせち料理のお煮しめを作り終えると、急いで人数分の巻き寿司を作って、家族でそろって食べたものでした。

母がしてくれたように、4人の子どもたちのために、何も足すことなく何も引くことなく、私も毎年これらの料理を作り続けてきました。そして母がそうだったように、我が家の台所にはストックの乾しいたけがいつも置いてあります。こうして、我が家の味というものが作られ、同時に庶民の食の文化、そしてスローフードが伝承されていくのでしよう。

近年、スローフードという言葉が流行しましたが、最初はイタリアのスローフードだけが多く取り上げられていたため、ムードだけで終わってしまうのではないかと私は正直、冷や冷やしていました。けれど、最近になって日本のスローフードにようやく目が向けられるようになり、日本の農業と食を長年応援し続けてきた私としては少しばかりホッとしています。

 

国産の乾しいたけは滋味深く、旨みが違います。

日本のスローフードで忘れてはならない素材の筆頭にあげられるのが、この乾しいたけではないでしょうか。最近では、生・乾とも輸入の低価格なものが出回っており、残念なことに見た目ではなかなか国産のものと区別がつきません。けれど食べてみればすぐにわかります。原木しいたけをゆっくり乾燥した国産の乾しいたけは、滋味深いだしがにじみ出て、旨みがまったく違います。
乾燥することによって保存もきき、栄養価もさらに高くなり、味わいにも深みが増す・・・先人の知恵とはなんと素晴らしいものでしょう。安心して、美味しく食べることができるというだけでなく、日本の食文化を守るためにも、大切なスローフードのひとつとして、私たちは国産の乾しいたけをさらに育て、次の世代に手渡していかなくてはと強く思います。

 

おあじはいかが「乾しいたけ、こう食す」より